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国境のない地球儀

「ほぼ日のアースボール」は、
どのようにして誕生したのでしょうか。

地球儀を開発することになったきっかけ。

「セカンドモデル」に込めた思い。

アースボールの生みの親である
「ほぼ日」代表の糸井重里に訊きました。

なぜ「地球儀」をつくったのか。

地球儀をつくろうと思った出発点は、
ぼくが見たある映画のワンシーンにあります。



それは、戦国時代の織田信長が、
献上された南蛮渡来の地球儀を
サッカーボールのように蹴り上げて、
晴れた青空のなかに地球が浮かぶ‥‥、
というようなシーンでした。

結局、そういう場面を含む映画は
見つからなかったんですけどね(笑)。

でも、ぼくの中にはそのシーンが、
なぜか映像として残っていました。
そのイメージを最初の出発点にして、
投げたり、蹴ったりできる地球儀が
世界中の家庭に転がっていたら
おもしろいんじゃないかと思ったんです。

それがアースボールをつくろうと思った
最初のきっかけです。



そもそも昔の家には、
地球儀ってけっこうあったんです。

それがいまは見かけなくなりました。

「グローバル」という言葉は
すごく日常的に使われるようになったのに、
そのグローバルのシンボルのような
地球儀が家にないんですよね。

それはなんでだろうって思ったんです。



それで自分が買うならと思って、
いろんな地球儀を探してみたのですが、
いいものは「男の趣味」のような、
重くて高価なものばかりでした。

それにアームのある地球儀は、
どうも勉強のためという感じがします。

ぼくがほしいのはそうじゃなくて、
「地球にいるやつが地球を持ってる」という、
自然で、当たり前にあるような地球儀だったんです。



そうやって考えていくと、
「好きに手で持ったり、転がしたりできる」
ということがぼくにとっては
重要なことなのかなって気づいたんです。

台座やアームがなくて、かるくて、丸くて、
転がしたり蹴ったりできるボールのような地球儀。

そういうコンセプトから、
最初のアースボールをつくりました。

なので、ぼくのやりたかったことは、
すでに前のモデルで実現できていたんです。



じゃあ、なぜ「セカンドモデル」を、
新しくつくることになったのか。

ぼくの中で「セカンドモデル」は、
前のものとは別物という感覚があります。

おおざっぱにいうと、今度のアースボールは、
「3つの要素」を含む地球儀です。

「プラネット」「ワールド」「ホーム」の3つです。

順番に説明してみようと思います。

プラネット、ワールド、ホーム。

まずは、「プラネット」です。

宇宙の中にある天体としての地球。

太陽のまわりをまわる地球。

月という衛星をもつ地球。

こういう話をするときの「地球」というのは、
物理学や天文学の中で語られる地球のことです。

まずいちばん大きくて広い意味として、
アースボールという地球儀は、
「天体としての地球」を感じることができます。



この小さな地球を見ながら、
「ここからロケットは飛び出すのか」
「月ってどのくらい離れてるんだろう」
「これを地球としたら、太陽の大きさは?」
みたいなことを思ったりするわけです。

天体としての地球を感じる入口が、
この小さなアースボールにはあります。

それが「プラネット」としての地球儀です。



次に、「ワールド」です。

グローバルという言葉の実体で、
ソーシャルとか、世界とか、
そういう言葉が示すようなものが、
この地球儀の中には入っています。



もし友だちがオランダに住んでるなら、
「オランダってどこなんだろう」
「日本からどれくらいの距離なんだろう」
って地球儀を見たりしますよね。

または「日本人が中東の紛争に
いまいち関心がないのは、
単純に距離が離れているからなのかな」とか、
そういう世界の関係性やできごとを、
世界規模でフラットに見ることができる。

それは地球儀の中の「ワールド」を
見ているということでもあるんです。



最後は、「ホーム」です。

ちょっと抽象的な言い方になりますが、
アースボールという地球儀は、
家の中の「家族」になる可能性があります。



たとえば「家の鍵」というものは、
「家に入れるか、入れないか」を
区別するシンボルでもあるわけです。

同じように「テレビ」や「パソコン」は、
世の中のできごとを教えてくれるシンボルです。

そういう意味ではアースボールは、
宇宙と世界をつなげてくれる、
宇宙と世界のことを教えてくれる
シンボルのような存在になるかもしれない。

鍵やテレビと同じように、
アースボールが家の中のメンバーになる
可能性があるとぼくは思っています。

国境も文字もない、みんなの地球。

ここまでの話をまとめてみると、
アースボールという地球儀は、
「プラネット、ワールド、ホーム」という
三層構造になっていることがわかります。

それでいてアースボールは「おもちゃ」です。

専門的な道具でも、高価な教材でもなく、
小さなおもちゃとして家にやってきます。
でも、それはただのおもちゃじゃなく、
メディアにも、学習教材にも、
プラットフォームにもなるという、
そういう可能性を秘めたおもちゃです。



アースボールというのは、
宇宙のモデルの「点」であって、
世界のことを教えてくれる「知」です。

さらに、この小さな地球を
ボールのように手に持つこともできます。

小さな子どもだったら、
ころころ転がして遊んでもいいわけです。

そうやって家で使われるものは、
もう立派な家の中のメンバーだと思います。



アースボールというものが
「プラネット、ワールド、ホーム」という
三層構造になったいちばんの理由は、
国境や文字をなくしたことが大きいです。

「国境のない地球儀」になったことで、
「プラネット」の役割がより浮かび上がり、
三層構造がはっきりとしたのだと思います。

そもそも国境や国名というのは、
あとから人の都合でつけたものなので、
時代によってたえず変化します。

それぞれの場所から見える世界は違いますし、
見ている地図も違います。

ある種、世界地図の表現というのは、
正解も終わりもないようなものなんです。



今回の「セカンドモデル」では、
国境や国名を調べるという本来の役割を、
アプリ側にぜんぶ入れてしまったことで、
これまでとは違う地球儀に生まれ変わりました。

むしろその方向転換のおかげで、
世界の変化をいつでもアプリで表現できます。

文字をなくしてしまったことで、
本体サイズを小さくすることもできました。

国境も文字もないそのまま地球だからこそ、
アースボールはみんなのものだよっていうのが、
ほんとうに言えるようになったわけです。

商品になるまでいろんな意識があったけど、
いま完成したものを前にすると、
ぼくらはすごいものをつくったんじゃないかって、
そんなふうに思っています。